ブログ無段
バカまっしぐらなダメ人間の古川土竜が、トチ狂った妄想を膨らませたり、ネジ曲がった暴論を吐いたりするわけで。にょほほほほ。

ダルデンヌ兄弟の『イゴールの約束』。

第58回カンヌ国際映画祭で、ベルギーのリュック&ジャンピエール・ダルデンヌ兄弟が監督を務めた『L'Enfant』がパルムドール(最高賞)を獲得したそうで。
ダルデンヌ兄弟は、これまでに『イゴールの約束』や『ロゼッタ』などを手掛けています。
ってなわけで、今回は1996年にダルデンヌ兄弟が撮った『イゴールの約束』を御紹介。

イゴールの父ロジェは、不法入国の斡旋をしています。
外国人を不法入国させて、アパートに住まわせるのです。
もちろん慈善事業ではないので、不法入国者からは高額の家賃を取っています。
警察に見逃してもらうため、何人かの不法入国者を引き渡すこともあります。
そんな違法な仕事の手伝いを、イゴールは続けています。

ある時、不法移民の1人アミドゥが足場から転落して重傷を負いました。
現場に居合わせたロジェは彼から、妻のアシタと子供のことを世話を頼まれ、約束します。
イゴールはロジェに、アミドゥを病院に連れて行こうと告げます。
しかし警察に知られることを恐れたロジェはアミドゥを見殺しにし、イゴールに手伝わせて遺体を埋めました。

ロジェはアシタに、「アミドゥは労働監督官に捕まらないようアパートから逃げさせた」と嘘をつきます。
イゴールも、アシタに本当のことは言いませんでした。
アミドゥが多額の借金をしていたため、アシタは借金取りから金の返済を要求されます。

ロジェはアミドゥの名前を使い、ドイツにいるという内容の偽の電報を送り付けました。
彼はアシタをアパートから追い出し、娼婦にしようと企みます。
そのことを知ったイゴールは、アシタと子供を連れ出し、2人を国外へ逃がそうとするのです。

ダルエンヌ兄弟はドキュメンタリー映画の出身で、これが劇映画は3本目。
ロジェを演じた無名の舞台俳優オリヴィエ・グルメを除き、アマチュアの人々を役者に起用しています。
大半の出演者は、ダルエンヌ兄弟の知り合いだそうです。

前半、イゴールはロジェの分身として存在しています。
父親と同じように煙草を吸い、同じような喋り方をします。
それは、この親子の絆の強さを表しています。
ただし、それは「息子が父に従属している」という関係であり、上から下に強い力が掛かっている関係です。

ロジェはイゴールに、自分と同じ指輪を渡します。
しかし、それは父から息子への愛情の証ではなく、決して裏切るなという圧力を示す物です。
刺青にしても、「お前は私の所有物であり、逆らうことは許されないのだ」という強い意思表示です。

父が息子の意思を尊重することはありません。
意思決定は、常に父親が握っているのです。
親子の関係において、イゴールはロジェの言いなりになるだけの、父親の手伝いロボットでしかないのです。
そして、そういう関係の中に、イゴールも浸かり切っています。

しかしイゴールはロボットではなく、感情を持った人間です。
意思を持った人間です。
遅れ馳せながら、彼は人間として生きようとするのです。

その時、そこには人間性が存在します。
自分の中に見つけた人間性を失わないようにするために、イゴールは罪悪感を認めねばなりません。
ロジェもイゴールも、形は違っても、罪悪感から逃げているという意味では同じです。
しかし、イゴールは逃げ切れなくなるのです。
アシタに対する気持ちの強さが、罪悪感を大きくするのです。
アミドゥの死を告白した時が、イゴールの逃亡生活が終わった時です。

アシタと子供の面倒を見るという約束をアミドゥと交わしたイゴールですが、その約束を果たすためには、父との約束を破らねばなりません。
しかし、父との約束とアミドゥとの約束、どちらを選ぶのかという比較においては、イゴールは父を選択しています。
イゴールがアシタと子供を助けようとするのは、正義感に目覚めたからではありません。
アシタに対して、たぶん母親を求めるような感情を抱いたからでしょう(イゴールに母親はいません)。
助ける相手がアシタでなかったら、男であったとしたら、たぶんイゴールはロジェに従っていたでしょう。
そこでは父との絆より、擬似的母親としてのアシタに対する気持ちが強かったということです。

イゴールは父と決別して、アシタを助けるわけではないのです。
アシタを助けるために、結果的に父を裏切る形になっただけです。
だから、イゴールは本当の意味で、ロジェの呪縛から解放されたわけではないのです。
それは現時点では、いわば一瞬の気の迷いに近いものです。

アシタが去ってしまえば、父との絆よりも強いモノが無くなってしまいます。
そうなった時、心の置き場所を失ったイゴールは、再び拠り所を求めるでしょう。
ロジェから「戻って来い」と迫られたら、再び戻ってしまうかもしれません。
イゴールは、まだ父親の支配下から完全に脱出したのではなく、その可能性を見せた段階に過ぎないのです。

では、死ななかったら、また会いましょう。

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